「世界の山々ーースイス・アイガー」という番組が今月半ばの深夜にNHKのBSで放送されたという。
友人のCさんが録画したものを二枚ダビングして持ってきてくれた。
ベルンに住んでいた2011年の夏、CさんとDさんが、はるばる訪ねてきてくれた。我が家に泊まったのだが、彼女たちの「スイスらしいシャレーに泊まってみたい」というリクエストで、グリンデルワルトに三人で一泊した。
村のホテルのなかでも、アイガーに一番近い、こじんまりとした宿。アイガー北壁が目前にそそりたつ。親しくしていたグリンデルワルト日本語観光案内所長の安東夫妻が、私たちのために選んでくださった宿だ。ここを拠点にして、グリンデルワルトを三人で堪能した。
グリンデルワルトは、ベルンから車で一時間。
冬のスキー、夏のトレッキングで、夫と毎週末のように通い、ホームグラウンドのように感じていた場所だ。思い返せば、信じられないほど贅沢な日々だった。
昨日は、三人で東京の我が家に集い、夫の部屋の大画面のテレビでみたのだ。
深夜番組のせいか声の解説は一切なく、優しいBGMと、時折、説明のテロップが入るだけ。「余計な音」がないお陰で、自然とスイスの世界へといざなわれる。
グリンデルワルトの山々と村を、あらゆる角度から、四季折々に映し出していた。
涙がでるほど美しく、なつかしい。そして悲しい。
撮影スポットの多くが、夫と歩いたり滑ったりした場所だった。こんなにも美しい景色に包まれる生活を二人でしていたなんて…。
この映像を、夫と一緒に見たかったのに…。
その夫はもういない。
小さなシャレーに泊まった明け方、朝日がアイガーに射しかかり、北壁の中腹が、一瞬紅色に染まった。
三人で窓から息をひそめて眺めた。刹那的な神々しさだった。
昨日もまた「あの時」の感動と重ね合わせて、三人で、言葉少なに、大迫力で映し出される景色をひたすら見入った。
「あの時」から流れた時間がもたらした、それぞれの人生の苦楽と変遷に思いを馳せながら。
Cさん、最高のDVDをありがとう💕
[ユングフラウ鉄道会社が毎年製作している特大サイズのカレンダー。この景色が、DVDでは動画となって、めくるめくように映し出されたのだった]