以前、書道教室でご一緒している94歳のAさんについて「老いのお手本」として書いた。
https://bistrotkenwood.hatenablog.com/entry/2019/11/21/230342
伴侶を亡くされて以来20年以上、お一人で禅僧のように規則正しい生活を送っている方だ。
前回ブログを書いたあと、更に畏敬の念を深める出来事が二回もあった。時系列に逆行するが、先生も驚嘆された二つ目の出来事をまず書くことにする。
それは、カルチャーセンターの書道講座の年末最後の日の出来事。
Aさんが四文字熟語を毎回一つずつ書いて仕上げていることは、前回のブログで書いた。
年内最後の日、受講生全員が先生の添削を受け終わると、自分の席で静かに待っていたAさんが、「先生、お時間を少しいただけますでしょうか?」
そして、おもむろに取り出したのが、下の条幅。
この一年に先生の指導の元で習得した四文字熟語を条幅一枚にまとめあげた作品だ。
中央の「炎」の字は、昨年の新年一回目の教室で、Aさんが先生に葉書に揮毫していただいた言葉だ。
昨年も一度も休まれなかったAさん(!)、一月から習った言葉を順に書き並べ、一番下左端は、年内最後のこの日に先生からご指導いただいた熟語を書き込むために空白が一つだけ残されている!
書道は途中で書き損じたら、最初からすべて書き直しとなる。
この完成した作品を仕上げるまでに、どれほどの行程を経てこられたのだろうか?
八月から作品に取りかかったと言われていたが、構想、割り付けから始まり、大変な道のりだったことだろう。
先生を始め一同、驚嘆と感動の声を上げた。
数えきれないほどのお弟子さんや生徒を指導してこられた先生ですら、このように、時間と思いが凝縮された力作を仕上げてきた人はAさんだけだと涙を流さんばかりに言われた。
お軸も普通の模造紙を切って貼り合わせてAさんが手作りしたものだ。
それにも先生は感激されていた。
経師屋さんに頼んで上等なお軸に仕立てる生徒はいくらでもいるなかで、手作りして、巻き上げたときの台紙と半紙のズレも見越して、「遊び」まで作ってあったからだ。
御歳95歳の独り暮らしの翁が、誰から勧められたわけでもなく書き上げた大作。
年始の「炎」の言葉を裏切ることなく、平成31年/令和元年をエネルギッシュに全うされたAさん。
魂の宿った書だ。