60からのしあわせさがし ~bistrotkenwoodの日記

徒然日記、料理教室、学習障害、お一人様、外国との縁

ドラマ: コガモの救出劇

今朝のウォーキング2周目にさしかかったとき、池の縁から10mほどのところにカモが一羽、ふだん聞かない声を上げてしきりに鳴いていた。少し遠くには、コガモが4羽、泳ぐ様子もなく浮かんでいる。「一羽減ってしまった!」とショックを受けながら少し進むと、高齢女性二人組と男性一人が、柵越しに池を覗きこんでいる。

「この網に足を挟まれ、抜け出せなくなっちゃったのよ」 みると、池の縁から50cm幅ほど水平に設置された粗い網に、ずぶ濡れのコガモが死んだようにうずくまっている。他の4羽より少し小さいチビちゃんだ。

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「さっきまで必死にバタバタしていたんだけど、力尽きちゃったのね。かわいそうに」

と二人の女性。70くらいのおじいさんが、「ぼくが助けてあげようとしたら、お母さんに襲いかかられて、手が出せないんだよ」「いま、公園事務所に助けを求めに一人行ってくれたんだ。」時計を見ると9:05、誰か助けに来てくれるだろうか?

「こういう状態になったヒナは、すぐにカラスに襲われてしまうから、ここに居てあげないとだめなんだ。」女性たちは去っていったが、おじいさんはじっとコガモを見守っていた。お母さんガモの鳴き声は、人間の善意を解さず、「私の子にさわらないで!」と訴えていたのだろう。いや、「ほら、もう少しがんばって。足をほどいてこっちへおいで」と我が子に呼びかけていたのかもしれない。どうしていいかわからない、困り果てたお母さんの声にも聞こえた。

親ガモは、チビちゃんを残して、一旦、4羽のところに水面伝いに飛んでいった。しかし、しばらくするとまた飛んで戻ってきて、近くに着水した。その気配で、死んだように動かなかったチビちゃんが首をもたげ、お母さんの方を見た。

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「きたきた!」とおじいさん。作業着を着た事務所職員が大きな網をもってやってきた。おじいさんとのやり取りは最低限にして、網を足元に置き、安全柵を乗り越えてコガモを助けにかかった。その横で「お母さんが襲ってくるんですよ。気をつけて!」とおじいさん。その言葉とほば同時に、お母さんガモが大きな声をあげながら所員の手に体当たりしてきた。剣道で攻め入るときの大きな声と電光石火の一撃のように。所員は思わずひるんで伸ばした手を引く。羽をバサバサと広げて襲いかかるから、もっと劇画的な光景となった。その攻撃は所員がコガモに触れようとするたびに、2回、3回と繰り返された。

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「僕が、この網を盾にして、お母さんを防ぐから、その間にたすけてあげてください」とおじいさんはいうと、所員が持参した網を手にし、コガモと親ガモのあいだに立てた。網にぶつかってくる親とモミクチャになりながら、所員はなんとかコガモの足を外すことに成功した。みるとコガモは、解放された勢いで網の中に入ってしまっていた。補虫網にかかった蝶を逃がしてあげるように、所員は網を水の中で何度か水平に揺らし、ようやくコガモは自由の身となり弱々しく泳ぎはじめた。

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我が子が解放されたのを見届けると、お母さんは、他の子どもたちの方へ泳いでいった。一羽取り残されたチビちゃんはゆっくりゆっくりみんなの方へと泳いでいく。その距離30m以上。

さて元気な4羽は、お母さんが戻って来ると、一緒に、この間も朝寝をしていた子ども広場の近くの草むらに上がった。まずは各自でていねいに羽繕いを始めた。そこに、かなり遅れてやってきたチビちゃん。「アレっ?」なんか変。よく見ると、あるはずのない体の脇に、片足が曲がってつきでている。泳ぐ時、水中のヒレも全く動いていない。完全に骨折してしまったのだ。

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水面との高低差が少ない場所とはいえ、陸に上がるにはピョンと飛び上がる必要がある。チビちゃんは幾度か跳ね上がろうとするが、片足骨折しているから失敗する。そもそも、元気だったころも、このひと回り小さいチビちゃんは、他の兄弟たちが難なく上陸できるところで、一回で水から出られないところを目撃している。

「遭難現場」で一緒だったオバアサンたちとこの上陸地点でまた会った。今回の「事故」を知るメンバーで、チビちゃんの動きを心配しながら追った。「あっ、あっちの方であがれたみたいよ。やってきたわ!」もうすこし楽に上がれる場所が少し先にあったようだ。ヨカッタ。びっこを引きながら草むらをかき分けてチビちゃんが現れた。人間の世界ではないから、お母さんも兄弟たちも、誰も歓迎するわけではないし、気遣ってもくれない。チビちゃんは、みんなと同じように羽繕いをし、朝寝体制に入っている兄弟たちに身を寄せた。まだ残るふわふわの産毛がきれいに整って、元気のオーラ漂う4羽にくらべ、チビちゃんは、もがいた時に羽もかなり痛めてしまったのか、どこか濡れ雑巾のようにみえる。しかし、兄弟たちのぬくもりを感じながら眠りについた。

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一番奥がチビちゃん。このあと目を閉じた。

ーー決してハッピーエンドとは言えないドラマ。チビちゃんの終わりの始まりのドラマなのではないかと想像してしまう。あと何日、生き延びられるだろうか?これがさいごのチビちゃんの姿となってしまうのだろうか?……「弱肉強食」という言葉ばかりが頭の中にちらついた。(ケアマネ来訪の時間が迫っていたので)夏の明るい陽射しが照り付ける中、暗く悲しい気分で、ウォーキングを切りあげていそぎ家路についた。