60からのしあわせさがし ~bistrotkenwoodの日記

徒然日記、料理教室、学習障害、お一人様、外国との縁

千字文大会ーー95歳の三千字

「老いのお手本」として95歳の男性Aさんについてたびたび書いた。コロナ自粛期間に千字文を楷・行・草の三書体で書かれた。Aさんの偉業に感嘆するばかりだが、それをご覧になってからの先生の行動にも畏敬の念を覚える。
先生は、Aさんの作品が少しでも多くの人の目に触れるすべはないかと思案された。そこで思い出されたのが公募の千字文大会。しかし締め切りはなんと10日後!
f:id:bistrotkenwood:20200726013510j:plain
そこからの先生は、80代とは思えない早さとエネルギーで動かれた。Aさんは耳が遠く、最低限の会話しか通じない。それでも先生はAさんに電話をかけ、作品を取りに行きたいと伝え、翌日の講座終了後にAさん宅を訪問された。上のポスターと筆談のためのメモ帳を持参して。
「出品するからには、やはり体裁を整えることも大切なのよ」と先生は私たちに話された。Aさんが古いカレンダーで作った表紙から付け替えるため、色画用紙を用意。題字と氏名を三書体で本人に書いてもらうため、和紙を大小の短冊にカット。一方、三千の文字をくまなくチェック。書き直す必要がある箇所の指示なども書き添え、短冊と共にAさんに郵送。
また、Aさんは、こよりを作って冊子を綴じていたそうなのだが、先生は新しいこよりを作って綴じ直し。
まるで自分の作品を出品するかのように、先生は精魂込めて、外見も美しい三部作に仕立て上げていかれた。
f:id:bistrotkenwood:20200726013401j:plain
そして、私たちの講座が終了した16:30過ぎから、郵送ではなく、ご自身で神保町の本部まで提出しに出向かれた。もちろんすべて無報酬、先生の善意と熱意のみ。
入選どころか、応募展の存在すら知らずに、無欲で書かれたAさんの作品。しかし、(コロナの前まで)毎月欠かさず写経に通われていたAさんだけあり、魂と祈りを込めて一文字ずつしたためた三千字。見る人の心を打つ作品だ。「(応募のタイミングがピタリと合ったことに始まり何から何まで)まるで神がかりとしか思えないのよ」と先生。
崇高とさえ感じられる素晴らしい師弟関係と、二人三脚で完成にこぎ着けられた偉業を間近で拝見し、今もなお感動の余韻に浸っている。