前回のブログで季節の色について書いたが、一昨日は、この上なく贅沢な色と空気感を堪能する一日を幸運にも過ごすことができた。
友人二人とともに箱根のPOLA美術館に日帰り旅行し、来月三日に終了するモネとマティスの特別展を滑り込みで観てきたのだ。
三人それぞれに、ずっと前からこの特別展にいきたいと切望していた。私は、過去のブログで取り上げたように、フランスに住んでいたときに、モネが作ったジヴェルニー村の「地上の楽園」を幾度か訪れて以来、魅了され続けている。
「睡蓮とジヴェルニー」(5/23/2020)
https://bistrotkenwood.hatenablog.com/entry/2020/05/23/100930、他
更にタイムリーなことに、友人が『ジヴェルニーの食卓』(原田マハ著)という短編集を借してくれ、短編の主人公としてマティス、ドガ、モネなどが次々と登場し、フィクション的要素があるとはいえ、彼らの人物像が生き生き脳裏に刻まれていた。
秋の行楽日和の水曜日、10時には現地に到着し、森の中にまっすぐ伸びるガラスのトンネルをくぐり抜けると、モネの作品たちが迎えてくれた。ジヴェルニーとポーラ美術館のリピーターには「おかえり!」と言ってくれているかのようだった。
そこには、ジヴェルニーで触れた色と空気(写真上: 2012年訪問時)、パリ郊外のセーヌの川辺の何気ない景色の匂いが漂っていた。作品のすべてが、あの睡蓮の連作のような美しい色で描かれているわけではない。むしろ、だからこそ、北フランスの田舎の日常のリアリティーを感じさせる。
展覧会のもう一人の巨匠・マティスの作品も、モネと対比されつつも伴走するように次々と現れる。マティスの作品をこれだけまとめてみるのは初めてだったが、原田マハによる晩年の画家の描写のお陰で、親近感を持って楽しむことができた。
それになんといっても、夫が大好きだった南仏の太陽の光と色が彼の絵の中にはあった。画家の天才的な技量のほかに、南仏の光の中だからこそ描ける作品たちなのだ、とつくづくと思った。
[マティスが滞在したニースではないが、近隣のヴァロリス。ピカソや陶芸家たちで有名な町だ]
モネがロンドンやヴェニスの風景を描いた絵が展示されていたが、それぞれの土地の光と色と空気に満ちていた。
浮世絵をこよなく愛したモネが、もし日本の土地に立ったらどんな絵を描いてくれただろうか?
もしマティスだったら、日本のどんな色をカンヴァスに表現してくれただろうか?日本のどのテキスタイルに惹かれただろうか?・・・想像するだけでワクワクする。
――お昼は、ミュージアムの緑の光があふれるレストランで友人たちと、モネとマティスをイメージしたおしゃれなランチと、たくさんのおしゃべりを心ゆくまで楽しんだ。そののち、再び、北フランスと南フランスへとワープ。閉館間際に、後ろ髪ひかれる思いで三人でガラスのトンネルを抜けて美術館をあとにした。ほとんど待つことなく「強羅駅ゆき」の文字が浮かびあがるバスが夕闇の中から現れて停車。私たちは箱根にいたのだ、とハッと我にかえった。