料理教室を、開始の2日前の夕方に中止した訳だが、そんな私に「部屋のしつらえも見たいし、食材を買ってしまったんだったら、食べに行きましょうか?」と友人が連絡してきてくれた。すでにワクチン接種も終えている友人だ。
「ありがたいわ、来て!」
タイ料理の代表的な香りであるバイマックルー(こぶミカンの葉)以外に、今回はタイから空輸の青パパイヤを取り寄せてあった。現地ではポピュラーな、ソムタムと呼ばれる青パパイヤのサラダやタイ風さつま揚げを紹介するつもりだった。
不要不急に分類されると思うから後ろめたさもあったが、ありがたい申し出。レストランに卸す野菜の栽培農家が、詰め合わせを一般家庭に採算度外視で送る心境とはこれに近いのだろう。漁業関係者もしかりだろう。食べられることなく廃棄するほど悲しいことはない。
ソムタムは、ガイヤーンというタイの焼き鳥と蒸したもち米と一緒に食べるのが定番のサラダ。現地では激辛。
日本でもかなり見かけるようになったが、ニンニクがキツすぎたり、甘すぎの味付けだったりして、なかなか好みの味に出会えない。
私が住んでいた80年代当時は、生鮮市場の出口辺りの道端で売っていたり、天秤棒をかついだ行商人が私たちが住むアパートの入り口まで売りに来たりしていた。鶏を焼く七輪と、ソムタムを作るすりばちと材料を乗せて器用にかついでいた。
久しぶりに青パパイヤに包丁を入れた。
現れた切り口にハッとする。実が緑がかった白色なのは想定通りだが、プツプツと丸いタネが純白なのだ!
私たちが果物として食べるパパイヤの種は黒っぽいのに、熟す前はここまで白いのに驚く。そして美しい造形。
緊急事態宣言が発出される前に友人がきてくれたおかげで、私は落胆から救い出され、その上、心と舌はかつてのバンコクへとVRの旅ができた。改めて、友に感謝!
ーーとはいえ、自分一人が救済されたことにも後ろめたさが残る。ここに来て、タイやインドネシアでは感染者が急増している。そして今日、東京の感染者数は1000人を越えてしまった。
少しでも早く過半数の国民がワクチン接種を終えて、感染拡大を押さえ込めればいいのだが、道のりは厳しそうで憂慮は尽きない。