60からのしあわせさがし ~bistrotkenwoodの日記

徒然日記、料理教室、学習障害、お一人様、外国との縁

軽井沢にて


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苔の奥深く謙虚な美しさに魅了される二日間を過ごした。

京都ではない。旧軽井沢で。

先週、友人Kさんの軽井沢の別荘に、あと2人の友人と共に車で連れていってもらった。

Kさんの別荘は彼女で3代目、旧軽井沢の“銀座通り”から脇道に入ってすぐという、なんとも贅沢な場所にある。正統派の軽井沢住人だ。

何度目かの訪問だが、毎回、ほとんど遠出せず、Kさんの「山」といえる規模の庭を散策したり、別荘地の小径を散歩したりするだけで、心満たされ、癒される。森の中の別荘地の小径は、両脇に膝ほどの高さの石垣が続く。その向こうの森の中に、ポツリポツリと別荘が佇む。そして、それら全てを苔たちがしっとりとまとめ上げている。石垣を覆い、苔むす庭も多い。人の気配を感じない別荘の住人は苔だ。

圧巻は、室生犀星の家。決して広くないが、庭一面を苔が覆い尽くす。その中に室生犀星が暮らした日本家屋が建つ。現在は、軽井沢町が記念館として管理し、往時の姿を一般に公開している。緑の絨毯という月並みな表現は不本意だが、教養不足ゆえ、よい言葉が見つからない。しっとりと、絶妙なグラデーションを織りなしている。

この記念館の管理人の一人とお会いしたが、Kさんによると、元々は、苔の研究者だったそうだ。

それで納得。苔に対する深い知識と愛情によって、大切な我が子を世話するように日々、苔たちの手入れをしているのだろう。

これほど、日本家屋と苔とが調和して見事な空間を生み出しているところはなかなかないと思う。軽井沢の気候風土と生態系が苔の生育に適していてこそ生み出される深淵なる日本の美の空間。

茶花の家元であるKさんは、軽井沢に滞在するたびに、庭や道端で摘んだ花を持ってこの記念館を訪ねて、床の間や随所に花をボランティアで活け込んでいるという。今回も私たちが見ている目の前でたちまち五ヶ所。自然に生育する花や枝たちが、師匠の手により刹那の作品に仕上がり、室生犀星の家に息を吹き込む。

緑の額ぶち越しに、息を止めて吸い込まれるように見入った。

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