60からのしあわせさがし ~bistrotkenwoodの日記

徒然日記、料理教室、学習障害、お一人様、外国との縁

夏のアパルトマン

自宅の一階に暑さから逃れられる場所があることに気づいて思い出したことが二つある。
飛躍しすぎて呆れられそうだが、一つはパリのルーブル宮。
そう、美術館として有名なルーブル宮殿。古くは中世に遡る国王の城としての歴史を持つ。時代の変遷と国王の権力の拡大に従って、今日みる重厚な宮殿へと拡張していった建造物だ。
その中に「Appartement d'ete d'Anne d'Autriche (アンヌ・ドートリッシュの夏のアパルトマン)」と呼ばれる一角がある。
セーヌ川に近い(Denon翼の)地上階にあり、イタリア様式の美しい天井画が描かれた部屋が連なっていたと記憶している。
パリに住んでいたとき、友人の奨めでエコール・ド・ルーブルというルーブル主催の“カルチャースクール”の講座を受講した。美術に関連した各種の講座が毎年開催され、主に講義室での講義を受ける傍ら、美術館内で実物を見ての講義も数回あるという、なんとも贅沢な“スクール”だった。
「フランス語がわからなくても、とにかくすばらしい内容だから、必ず学ぶことがある筈よ。それに受講生は美術館の年間入場パスももらえるのよ」と友人に説得されたのだ。フランス語力の乏しさで、講義内容の半分もわかっただろうか? いま思い返しても残念でならない。
このスクールで、私は建造物としてのルーブル宮の歴史についての講座をとった。展示されている美術品ではなく、天井や壁の装飾様式、階段のつくりなどに目を向けてみると驚くほど興味深い巨大な建造物であることに気づかされる。

さて、その講座の実地見学で案内された一つが、冒頭のアンヌ・ドートリッシュの夏のアパルトマンだった。彼女はルイ13世の王妃であり、後にヴェルサイユ宮殿を築いたルイ14世の母だ。幼くして国王になったルイ14世をアンヌは摂政となって支え、政治を司っている。ルイ14世は17歳になった時、母のために「夏のアパルトマン」を作った。彼女が普段暮らすアパルトマンは南向きで夏は暑かったらしい。と言っても、日本の夏に比べれば、暑い部類に入らないと想像するのだが。そもそも「暑さ対策」という概念は、21世紀になって地球温暖化問題が取り沙汰されるまで、北ヨーロッパにはなかったように思う。(それまでは、パリの住居には冷房が不要だったし、いまだにない古いアパルトマンがあると思う)
それでも母のために、夏の季節をより快適に過ごせる東向きのアパルトマンを王は作った。それも、当代随一の建築家や絵師・彫刻家に依頼して華麗な空間に仕立て上げている。王である息子にこのように厚遇された元王妃は他にいないのではないかと思う。(と言っても、マザコンだったという説は聞いたことはない、笑)
「夏のアパルトマン」という言葉が妙に頭に残り、今回、我が家のちっぽけな部屋に避難したら、急に思い出した(笑)。連想するにも比較対象に限度があると咎められそうだが、「古今東西、王侯貴族から長屋の庶民まで、季節限定で過ごす部屋もアリだな」と思った次第。
※この「季節限定の部屋」で思い出したもう一つのことは、後日書こうと思う。