60からのしあわせさがし ~bistrotkenwoodの日記

徒然日記、料理教室、学習障害、お一人様、外国との縁

タイの宮廷料理

昨年も今年も1月にタイ料理をお教えした。今回は、今が旬の生牡蛎を使ったタイ風サラダ、トムヤム風味のフォー、ハスの実の入った薬膳汁粉など。タイに冬は存在しないのに、今の季節にぴったりと皆さんに喜んでいただけた。

そして皆さんにウケた料理がもう一品あった。王室を中心に継承されてきた宮廷料理のひとつのルムだ。宮廷料理は、庶民のタイ料理と違ってあまり辛くなく、一口で食べられる料理が多い。かつての高貴な女性たちは「(口を大きく開かずに)小鳥がついばむように少しだけ食べる」のがたしなみとされたらしい。そのため、今風に言えばフィンガーフードやピンチョスのサイズの料理が多い。その一方、高級食材を使っているかと思いきやそうでもない。一般的な食材に手間暇かけて小さく上品に仕上げるのがタイ式宮廷料理。

その最たるものが今回紹介したルムだ。溶いた卵液に手をひたして、テフロンのフライパンの上で上下左右に振って網状の薄焼きを時間をかけて作っていく。その中に豚・エビ・ピーナッツなどのタイ風甘辛そぼろを包む。網を透かして細切りの赤ピーマン(現地では生の赤唐辛子)とパクチの葉が彩りと香りを添える。パクっと一瞬で食べてしまうのに手間は半端ではない。そのためレストランで出会うことはほとんどない。タイに住んでいた20代の頃は、宮廷料理の店は敷居が高すぎて、ルムの存在すら知らなかった。

今回、付け焼刃の練習をして下手ながら卵の網の実演をしたが、みんな目を丸くしていた。これほど単純な素材でここまで面倒な作業があるとは!ルムを実際に作る人は少ないと思う。しかし中身の甘辛そぼろは簡単でなかなかおいしい。炒り卵などと一緒にご飯に乗せれば、たちまちエスニックそぼろ丼ができあがる。ひと味違う丼ランチを楽しんでいただけるだろう。

――タイ料理の奥深さと幅の広さを改めて実感した1月となった。