この一ヶ月、ダイニングキッチンがある二階では、かすかなカレーの香りが朝から晩まで漂っている。タンドーリチキンとひよこ豆のカレー煮込みを教室で教えたためだ。試作と講習と合わせて6回ほど作った。220g入りの大きなカレー粉の缶の中身が底の方にしか残っていないことに自分でも驚く。

話は大きく飛ぶが、60年以上前に私はロンドンで生まれた。海外駐在員とはいえ、駆け出しで給料が少ない両親は、タウンハウスの最上階、屋根裏部屋っぽいところに住んだらしい。両親たちの前の借家人はインド人だったという。そのため家じゅうカレーのにおいが染みついていて、なにをどうやっても脱臭できず閉口したという。1歳半で帰国した私はもちろんなにも覚えていない。
久々に母のこのカレーのにおいの苦い記憶を思い出した。一年中作り続けたら、たしかに壁紙や家具にまで染みつきそうだ。暑い夏に食欲をそそるいい香りである反面、そのインパクトは絶大だと鼻が教えてくれた。