60からのしあわせさがし ~bistrotkenwoodの日記

徒然日記、料理教室、学習障害、お一人様、外国との縁

たかが額、されど額

先月、小さなしあわせを感じたもう一つのプロジェクトがあった。

9年前にプレゼントされたままになっていた版画2枚を額装したことだ。

一枚は、スイス時代の同世代・同業で親しかったフランス人夫婦から。

「イチローにぴったりなのを地元の蚤の市でみつけたから」と、私たちが帰国して数か月後に、わざわざに日本にまで送ってきてくれたもの。

ローマ神話の正義の女神・ユースティティア(ギリシア神話ではテミス)が描かれた古い銅版画。天秤を手に持ち裁量する姿は、司法における法と正義の象徴とされている。女神の台座には「IMPARTIALITE=公平無私、公明正大」と記されている。

心憎い贈り物だ。

しかし、いかにも蚤の市と言っては失礼だが、紙は風化し、周囲には濡れたシミまで浮き出ていて、かなりくたびれた感じ。額縁店に持ち込むのをためらったままお蔵入り。

10年ひと昔というが、当時と状況は大きく変わった。老後を見据えておひとりさまの節約と断捨離を進めている。でも゛夫らしい”この版画は、しばらくの間だけでも気楽に飾りたい。寝室には、安物尽くしだが、パリのノートルダム寺院のリトグラフ、プロヴァンスの風景の水彩画2枚がかかっているので、仲間入りさせたい。

先月初め、徒歩圏にあるユザワヤにダメ元で行ってみた。そして目に留まったのがオールアクリル素材のお財布にも優しく軽い額だ。いまの私にピッタリ!注文コーナーにいくと、マットの台紙のサンプルをたくさん出して相談に乗ってくれる。原版を預けて後日受け取るものと思いきや、30分もたたないうちに完成。シミだらけだった部分は、マットですっかり隠れ、絵の縁のエレガントな小文字だけが、まことしやかな存在感。まるで、汗だくの乱れ髪だった高齢女性が、美容院からすずやかな姿で出てきたようだった。

 

帰宅後さっそくピクチャーレールのワイヤーにフックを追加して、夫の遺影のあるコーナーの近くに吊るした。小さなしあわせどころか、大きな幸福感に満たされた。

※ちなみに、勢いにのって、別の方からいただいたもう一枚の版画を持って再びユザワヤに行ったのだが、作業してくれたオジサンは休みだった。初日にもいた女性によると、そのおじさんはかつては”ちゃんとした”画廊に勤めていた人だという。マットのバランスを割り出す瞬時の判断力と手際よさに納得した。3度目の訪問で、2枚目の版画も、そのオジサンの手によってよい塩梅に仕上がり、フランス絵画の部屋(爆笑)に仲間入りを果たせた。

ーーこの一連の作業の直後に、あの悲劇の7月8日がおとずれ、しばし味わった高揚感は瞬く間にしぼんでしまった。