今回の台風で、東日本の50以上の河川が決壊し、甚大な被害が出てしまっている。ニュース解説で、日本列島の河川の分布図をみて、改めてその多さに驚く。
山も複雑に連なり、高低差が大きいことも被害を大きくしているようだ。
被害にあった住宅地の中には、河川からかなり離れているところも少なくない。「まさかここまで浸水するとは!」とだれだって思う。急速な気候変動の現れといえるのかもしれない。
その一方、「水の近くに住むな」と昔から人々はいった。私が住む東京の郊外でも、近くに池があり、小さな川がある。「あの池や川の近くは水が出るから住んではいけない場所」と母から何度聞いたことか。先日会った別の場所に住む友人も、親から同じようなことを言われていたという。経験から生まれた先人たちの知恵だ。
「住居と水の距離」に注目が集まっている今、急に鮮明によみがえってきた光景と思い出がある。
10年前に、スイスのベルン市に住んでいた時に日帰りで見学に訪れた家、20世紀の建築の巨匠、ル・コルビュジェが、年老いた両親のために、レマン湖のほとりに作った「小さな家」だ。
これほど水辺に接近して建てられている一軒家を見たのは初めてだった。母の呪文のせいか、違和感を覚えたほどだ。
台風や地震の心配がなく、地質的にも頑強だと可能なのだ。
台風被害の深刻さが次々と明らかになっているだけに、
「なんて幸せな”小さな家”なのだろう!」とうらやましく思う。
(とはいえ、スイスはスイスで非常に厳しい自然と人々は闘ってきた。このことは、またいつか別の機会に書きたいと思う。)
最後に「小さい家」を訪れた日(2009年10月)につけたブログを参考まで。ただし、書いている切り口は「住居と水」ではないので。
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10月の最後の水曜日にフィンランド人の友人とVeveyに日帰りで行ってきました。電車がローザンヌに到着する前の最後の5分間は大パノラマが車窓に展開します。眼下に一面に広がるブドウ畑、段々畑になっていて見事です。ブドウ畑の向こうは左右にゆったりと広がるレマン湖、そしてその向こうにアルプスの山々。夏のトレッキングで眺めてきた景色とはまた一味違う優美な光景です。この日は霞がかかり肉眼ではうっすらと見える山も残念ながら写せませんでした。
ローザンヌで電車を乗換え、目的地Veveyに着きました。どこかフランス的空気も漂う落ち着きのあるVevey旧市街とレマン湖沿いの遊歩道の散歩を楽しみました。レマン湖畔にはハクチョウが似合う、と思い出したように感じました。友人も私もレマン湖に面したジュネーブに住んでいたことがあるのですが、モンブラン橋のたもとにもハクチョウがいたわね、とお互いに懐かしく語り合いました。それと同時に、同じレマン湖畔でありながら、(ジュネーブとは)東西の対極に位置するVeveyから見る景色の美しさに魅了されました。湖が狭まって対岸の山々が迫っているからかもしれません。この日の光景はレマン湖の美しい景色として目に焼き付いて残ることでしょう。
さて、この日の最大の目的は駅から徒歩15分ほどのところにあるル・コルビュジェの「小さい家」を訪ねることでした。建築家の彼が年老いた両親の為に建てた家です。月に一度しか一般公開しないのですが、冬を迎える前の最後の開館日でした。その小さな家は名実ともにレマン湖の「ほとり」に立っていました。家と湖との間は10mもないのです。今でいえば、プレハブ建ての長方形の平屋とでも表現できるワンルームの家です。当時としては斬新で革命的な家だったことでしょう。
これ以上ないほど無駄をそぎ落とし、高齢夫婦が快適に生きていくための必要最小限のものだけを設えた家でした。バリアフリーなどという言葉が発明される何十年も前に「老親の生活のしやすさ」を追求して作られ、結果としてバリアーフリーの住居。
湖畔に立つ細長さを最大限に生かして、南側一面にはシンプルな窓がはめ込まれています。そこから湖の見事な景色が望めます。Veveyとレマン湖の美しさを最大限に「切り取って」生かした家でした。春から夏そして晩秋までの間、季節の変化とともに変わりゆく景色をベットからも眺められた老夫婦はなんと幸せな余生を送られたことでしょう。