『三月ひなのつき』、児童文学者の石井桃子の名作の題名だ。
子どものころ何度も読んだ。小さいときは、絵が地味で、よさがわからなかった。それが一年毎に、大人っぽい雰囲気に惹き付けられていった。名著のゆえんだろう。
今でも毎年、頭の中で「三月、雛の月」と唱えながら、ひな人形を飾る。飾らないと三月が迎えられないような気持ちになる。
娘の初節句に、夫の母が木目込み人形の教室に通って、立派なお雛様を贈ってくれた。息子しかいない義母が、心を込めて作ってくれた世界に唯一無二の娘のためのお雛様。ありがたいことと思っている。
だが、義母には申し訳ないと思いつつ、最近では数年に一度しか飾っていない。
その代わりと言ってはいけないが、友人の紹介で出会ったガラス作家・渡辺仁芳子さんによるおひなさまが登場する。
彫金工芸家のご主人とのコラボ作品だ。
ガラスなのに温かみのある柔らかな風合いが素敵な作品だ。
今日は、桃の節句の当日だった。
しかし、今年ほど、ひなまつりを“アウェー”に感じたことはない。
立春を迎えた直後に飾ったが、まさかコロナウィルスの脅威がここまで拡大するとは想像していなかった。
昨日から、遂に全国の過半数の学校が休校になってしまった。
世の中の活動が、異例尽くしというほど軒並み中止となっている。
例年ならば、街中を彩る可愛らしいお雛様グッズや桃の花に目を細め、ひなの月の思い出に浸るのだが、今年は、その日が近づくほどに閉塞感が募ってしまった。ほんとうに残念なことだ。
どうか一日も早く元の日常、ふだんの「ひなのつき」に戻ってほしいものだ。