60からのしあわせさがし ~bistrotkenwoodの日記

徒然日記、料理教室、学習障害、お一人様、外国との縁

老いのお手本

書道講座は、実技を超えて、人生勉強の場となっている。

94歳のAさんがその筆頭だ。
奥さまを20年以上前に亡くされ、独り暮らし。
猛暑の中も雪の日も、入門して7年以上、一回も休まず、通っているという。(講座は月4回、休みはお盆とお正月のみ)
足取りは年齢相応だが、雨の日以外は杖も使わず、リュックを背負ってバスで通ってこられる。こざっぱりとした身だしなみで、いつも真っ白なソックスを履いている。

蓋つきの品のいい小さい硯に、化粧水の試供品のような容器から水をいれ、墨をすりはじめる。常に、墨汁に頼っている私となんという違いか!(・_・;)
毎回、先生と四文字熟語を選んでは、太い筆で力強い字を書き上げるが、順番待ちの間も練習を重ねている。

Aさんの規則正しい日々の生活がまた素晴らしい。

日の出とともに起床(4:00-5:00?)。
削り節器で鰹節をおろし(!)、お味噌汁を作って朝食。
片付け。
食後、新聞を熟読。
洗濯、掃除の家事。
(「今の時代、細い棒一本で簡単に掃除できるものがあるでしょう?手抜きですよ」と。)
その後、午前中に欠かさず書道。先生のお手本を繰り返し繰り返し練習されるようだ。

また、毎月1日には、都心を横切って深川の方にあるお寺に写経に通っている。
1日が月曜日と重なると、写経を終えてから書道に少し遅れて来られる。
そして、お寺の近くで買ったおいしいお漬け物をみんなに一つずつ配ってくださる。夏には、人数分の保冷剤までちゃんともらって来て、銘々の小袋に入れて渡してくださる。

自らを律しながら日々を送られているお姿は、まるで禅僧のようだ。(もともと、障害児教育関係の教諭だったらしい。)

「こうして元気に生かされていることに感謝しています」と穏やかな優しい声で話され、胸の前で合掌される。

80代のBさんも、
「Aさんを見たら、自分も弱音など吐いていられない。見習ってやっていかねば!」と自分を奮い立たせている。

日々の生活を淡々と、感謝の念とともに全うしているAさん、その背中を追いかけて頑張っているBさん。
男性が歳をとってから一人で生きていくのは、女性以上に大変だと思う。
Aさんは、耳がとても遠いので、長い会話はできない。でも、二人で励まし合うように通ってこられるお姿に、静かな感動を覚え、自分もまた、見習っていかねばと思う。

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[晩秋のベルン市郊外]