60からのしあわせさがし ~bistrotkenwoodの日記

徒然日記、料理教室、学習障害、お一人様、外国との縁

おもてなしの心

先日、かつて夫とともにお世話になった方々が多く集う夕食会に招待された。
主催者はアメリカの老紳士X氏。たくさんの肩書きを持ち、先進各国に拠点をもち、いまだ現役で活躍されている。
夫がアメリカでご縁を得てからまもなく20年になるが、夫が亡くなっても尚、お声かけくださるご厚意にいつも感謝している。

X氏について敬服することが数々あるが、その筆頭が「直筆」へのこだわりだ。封筒の宛名書きに至るまで、必ずX氏が、その個性的な字で書かれる。
毎年、10月下旬に招待状が届くのだが、アイボリーの高級封筒をひと目見れば、X氏からとわかる。
当日、会場に到着すると、緑のシャツに赤いネクタイのX氏が、アメリカ人の明るいノリで、一人一人を歓迎され、席の案内札を手渡してくださる。これもまた、名刺大のアイボリーの封筒に私の名前が書いてあり、中のテーブル番号まで直筆。夫と出席したときは、夫婦は別テーブルと決められていたので、二つの封筒。席にはもちろんX氏が書いてくださった私の名札が置かれている。

大変裕福な方なので、いくらでも外注できるのに敢えて全て手書きされるのだ。外国人には難しいローマ字表記の住所を一人一人間違えずにペン書きするのは、並大抵なことではない。年賀状の表書きをプリンターに頼ってしまう自分が恥ずかしい。

その他にも、X氏の細やかなお心遣いに心動かされる。
夫が入院していた時、すてきなお花と丁寧なお見舞いのカードがX氏から届いた。亡くなって間もない頃もまた、お心のこもったお悔やみの手紙をお花とともに頂戴した。
夫が特別だったわけではなく、多分、先日の会場に招待されたどの方に対しても、同じように手厚く対応されるのだろう。

X氏にとって、日本の知人(「my friends」と呼んでくださる)は、彼の交際リストのほんの一部に過ぎない筈だ。各国に事務所があろうが、秘書がいようが、あの字と温かい言葉を書けるのはX氏しかいない。まして、損得勘定したら、未亡人の私など最初に除名されている筈だ。

最後にもう一つ、この夕食会に伺う回数が増えるほどに感銘を深めていることがある。
X氏による、見事な席次の采配だ。
欧米式プロトコールなので、円卓には男女交互に着席するのだが、私ごとき者に対してですら、ちゃんと席次への配慮が感じられる。左右は、必ず存じ上げている男性の方のお席になっているのだ。

これは、すごいことなのだ。
夫は、仕事関係の食事の席次を決めるのに、たいした人数でなくても、とても苦心していた。
それがX氏は、さまざまな肩書きをもつ大人数の席次を、毎年、全く違う組み合わせで決めてくださる。お互いに楽しみ、会話が弾むように…。

「おもてなし」は、日本人の専売特許ではないようだ。アメリカ人のホスピタリティー精神もまた素晴らしいと、X氏の細やかなお心配りに接してつくづくと思う。

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